エンタープライズネットワーク

2019.07.19

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とある技術者から無線LAN製品メーカ殿への手紙  ~聖徳太子の伝説と新規約IEEE802.11axの課題~

拝啓
無線LAN製品を開発なさるメーカ殿、
いつもすばらしい性能の無線LAN製品(アクセスポイントや端末)を世の中へご提供くださりまして、大変にありがとうざいます。おかげ様で、弊社のお客様も私たちも、無線LANの超便利さに、日々助けられています。

その無線LANですが、2020年6月頃に策定完了予定の新しい規約のIEEE802.11axに対応すると、極超の便利さへとさらに進化するそうですね。Wi-Fi6や次世代高効率無線LANとも呼ばれる新規約IEEE802.11axは、無線端末や無線LANアクセスポイント(AP)の数が増加した高密度・稠密な状況でも快適に無線LAN通信できるように高度な技術が駆使されているとのことゆえ[1]、11ax対応製品の開発も、ご苦労が多いだろうとお察しします。

テレビのクイズ番組を見ていると、いつも不正解ばかりでして、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られる私ですが、IEEE802.11シリーズの無線LANの進化を、1台のAPと複数の無線端末との関係から捉えると、以下に示しました図1(a),(b)及び(c)は、捉え方の一案としてはOKだろうと気がついたところです。

無線LANは図1(a)のように、1997年に策定された最初のIEEE802.11規約から2013年に策定された11ac規約のWave1までは、ある周波数チャネル(図1では例えばCH-XY)でAPと無線端末(CL)が通信する場合、複数の無線端末が存在しても(図1ではCL1とCL2の 2台)、APと無線端末は、必ず、異なる時刻で1対1の関係で通信しますよね。

★図1(a) IEEE802.11シリーズ無線LANにおける進化:同じ周波数チャネルで異なる時刻で、単一端末(シングル ユーザ)と無線伝送

これが進化して11ac規約のWave2では図1(b)のように、APから無線端末への下り回線の場合には、APは複数の無線端末に対して、同じ周波数チャネルで、同じ時刻で通信が、下り回線マルチユーザMIMO(DL-MU-MIMO)という高度な技術を使った場合には、可能になりましたよね。DL-MU-MIMOは、11ac規約の必須でなくて、オプションなのでそれに対応した特に無線端末の製品は、あまり普及していない印象で、ちょっと残念です。しかし、小型になる無線端末で高度な技術であるDL-MU-MIMOに対応させる開発は困難さが大きいだろうと推測しました。私たちもDL-MU-MIMOの挙動を試行錯誤しながら検証評価しましたが[2]、APは下り回線で常時、複数の無線端末と通信する訳ではなく、ある瞬間は、1つの無線端末と通信することもありえることを実験的に確認しました。

★図1(b) IEEE802.11シリーズ無線LANにおける進化:同じ周波数チャネルで、同じ時刻で、下り回線で、複数端末(マルチ ユーザ)へ無線伝送

そしてさらに進化して2020年6月頃にはIEEE802.11ax規約が策定完了予定であり、なんと、図1(c)のように、下り回線(DL)に加えて、今度は無線端末からAP への上り回線(UL)の場合も、複数の無線端末からAPに対して、同じ周波数チャネルで、同じ時刻で通信が(上り回線マルチユーザ 伝送:UL-MU伝送)、やはり高度な技術(MU-MIMOやOFDMA)を駆使して、可能になる予定とのこと、超びっくりです。特にOFDMAという新技術は、下り回線(DL)と上り回線(UL)の両方に対して、新規約11axでは必須とのことゆえ、新規約11ax対応のAP製品と無線端末製品に対するメーカ殿での開発対応にも力がはいっているとお察しします。

★図1(c) IEEE802.11シリーズ無線LANにおける進化:同じ周波数チャネルで、同じ時刻で、下り回線と上り回線で、複数端末(マルチ ユーザ)と無線伝送

ここで、再び気がついたことがあります。日本史で学んだ聖徳太子は、複数の人からの話を同時に聞き分けることができたという伝説がありますが、図1(c)の上り回線の場合、新規約11ax対応のAPは複数の無線端末に対して、その聖徳太子のようにふるまうことになるんだなぁと気がつきました。しかし、現実の11ax対応のAPは、聖徳太子の伝説のようにふるまうためには、課題がまだあるということも知ったところです[1][3]。課題解決には、APだけでなく11ax対応の無線端末にも、当然に、APとうまく連携する工夫が必要そうですね。

今般、弊社の社内無線LAN運用環境で収集したデータを解析して、新規約11axの新技術(上り回線マルチユーザ伝送:UL-MU伝送)に対応したAPと無線端末の開発や改善の検討に貢献する基礎的で有益な知見を社外発表しました(第635回URSI-F会合)。その発表資料は一般公開されていますので自由にご参照いただけます[4]。その資料で述べた知見が、メーカ殿における開発等に、少しでもお役にたてば幸いです。

メーカ殿のご努力によって、新規約11axに対応した良い製品(APや無線端末)が、登場してくれることを祈念しております。

敬具

追伸)参考資料です。
[1] 総務省 情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会(第48回), “資料48-2-2 委員会報告(案)「次世代高効率無線LANの導入のための技術的条件」,及び,資料48-2-3 委員会報告(案)「次世代高効率無線LANの導入のための技術的条件」(概要)”, http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/ido/02kiban12_04000249.html,2019年4月11 日, 参照 Apr.26, 2019.

[2] 松戸孝,山下聖太郎,丸田竜一,宇都宮光之,田中政満, 大石太郎, 力石靖, 植谷昌博,”屋内事務所環境における IEEE802.11ac規約の下り回線マルチユーザMIMOのスループット測定実験”, http://ursi-f.nict.go.jp/annai630.html, 第630回URSI-F 会合, 2018年12月7日, 参照 Jul.2, 2019.

[3] 総務省 情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 5GHz帯無線LAN作業班(第13回), “5GHz作13-2 IEEE 802.11axにおける上りリンクマルチユーザ伝送(UL MU)を考慮した共用検討”, http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/02kiban12_04000231.html, 2018年12月7日, 参照 Dec.21, 2018.

[4] 松戸孝,丸田竜一, 植谷昌博,田中政満,山下聖太郎,宇都宮光之, 力石靖,”IEEE802.11ax規約の上り回線マルチユーザ (UL-MU)伝送における無線端末での送信電力制御の低減範囲を探るための実験的検討”, http://ursi-f.nict.go.jp/annai635.html, 第635回URSI-F会合, 2019年6月20日, 参照 Jul.2, 2019.

 

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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